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心臓弁膜症

目次

    「心臓弁膜症」という言葉を聞いたことがありますか?これは、心臓の弁が壊れ、血液の流れが滞る病気です。心臓の弁は血液が一方向に流れるように調整する役割がありますが、これが壊れて血液が逆流したり抵抗が増えたりすることがあります。これが心臓弁膜症で、放置すると「心不全」という深刻な病気に進行する可能性があるので、注意が必要です。早期発見のためには聴診器を使った「心雑音」の聴診や心臓超音波検査(心エコー検査)が必要です。

    心臓と心臓弁の仕組み

    突然ですが、あなたは手動の灯油ポンプを使ったことがありますか?先端の赤い手押し部分をシュポシュポ押すことにより、灯油を別の容器にくみ上げることができる、あの懐かしのポンプです。この灯油ポンプには二つの逆流防止弁(逆止弁)がついており、この弁の働きにより、液体が逆流せず一方通行で流れるような構造になっています。心臓も同じ仕組みで、4つの心臓弁(弁膜)が逆流を防いでいます。心臓はポンプのように拡張と収縮を繰り返し血液を送り出しますが、心臓弁なしでは血流の方向が定まらないため、1日に7000Lもの大量の血液を全身に効率的に送り出すことができません。

    灯油ポンプの逆止弁

    心臓にある4つの逆止弁(弁膜)

    心音の「ドックンドックン」の意味

    健康な心音は「ドックンドックン」と表現されます。これは、心臓弁が正常に動作しているときの音で、「ドッ」と「クン」の二つの音が1セットとなります。これらの音は弁の閉まり具合を表し、「ドッ」は僧帽弁が閉じる音、「クン」は大動脈弁が閉じる音を表します。ドアが閉まるときの音は「バタン」と表現されますが、心臓では「ドッ」と「クン」と表現されるということですね。ちなみに「ドックン」以外の音はすべて「心雑音」か「異常心音」です。心雑音が聞こえるというときは健康な心臓ではない可能性があるため、注意が必要です。

    心雑音は放置しても大丈夫?

    心臓内を流れる血流に乱れが生じると「シューシュー」「ザーザー」といった雑音が聞こえるようになります。これが心雑音と呼ばれる聴診所見です。川の幅が狭くなると流れが速くなり「ザー」という音が出るのと同じ原理で、何らかの原因で心臓の中の血流が速くなっていることが要因です。心雑音の原因として代表的な病気は心臓弁(弁膜)が壊れる心臓弁膜症という病気ですが、その他の病気でも心雑音は聞こえます。たとえば生まれつきの心臓病(先天性心疾患)や細胞レベルで心臓の異常を示す閉塞性肥大型心筋症などでも心雑音は聞こえます。これらの病気は放置により「心不全」と呼ばれる深刻な病気に進行する可能性があるので、早期治療が大切です。一方で、心臓に異常がなくても流速が速ければ心雑音は聞こえるようになるため、小さなお子さんや貧血の患者さんなど、脈が速くなる状況では心雑音が聞こえるようになります。このような場合、心臓は健康ですので「無害性雑音」や「機能性雑音」と呼ばれます。このように一言で「心雑音」といっても命に関わるものから放置しても良いものまで様々な原因が考えられますので、その見極めがとても重要になります。この見極めをする追加検査の一つが、後述する心エコー検査(心臓超音波検査)です。

    心臓弁膜症とは何か?

    心臓弁膜症は、心臓弁が壊れる病気で、狭窄症(きょうさくしょう)と閉鎖不全症(へいさふぜんしょう)の2つの壊れ方があります。前者は弁が狭くなる病気、後者は弁が逆流する病気 で、いずれも心臓の負担が増えるという意味で心不全の原因となります。心臓弁膜症は、心筋梗塞、心筋症についで第3位に位置する心不全の原因疾患ですので、早期に発見し、重症度を評価することがとても重要です。心臓弁膜症とはおおまかに「4つの弁×2つの壊れ方 = 8種類(下図)」あるといわれていますが、その中でも★マークがついている大動脈弁狭窄症 は「弁の老化」の影響を強く受けるため、高齢者人口が増える本邦で急速に増えている弁膜症の一つといえます。

    弁の壊れ方は二通り

    弁の壊れ方

    心臓弁膜症の種類

    弁の場所 狭窄(狭くなる) 閉鎖不全症(逆流する)
    大動脈弁 ★大動脈弁狭窄 大動脈弁閉鎖不全症
    僧帽弁 僧帽弁狭窄 僧帽弁閉鎖不全症
    肺動脈弁 肺動脈弁狭窄 肺動脈弁閉鎖不全症
    三尖弁 三尖弁狭窄 三尖弁閉鎖不全症

    心臓弁膜症の症状は気づきにくい?

    初期の心臓弁膜症は無症状です。年齢とともに進行すると、運動したときに息切れや動悸が生じるようになります。しかし、運動時の息切れや動悸は「歳をとったせいかな?」と勘違いされることが多く、見逃されやすい症状ともいえます。息切れ、胸の痛み、ドキドキなど が心臓弁膜症のサインかもしれませんので、気になることがあれば、「歳のせい」と思わないで早めに循環器内科の医師に相談しましょう。健康診断の際や65歳以上の方は定期的に聴診器を使った聴診を受けるようにして、この病気を見過ごさないことが大切です。

    息切れや動悸は心不全のサイン

    心不全のサイン

    聴診で心雑音があると言われたら心エコー検査を受けましょう

    心エコー検査は、超音波で心臓と血流の動きを同時に観察できる、痛くも 痒くも無い30分程度の検査です。これにより心雑音の原因を特定し、心臓や弁の動き、弁の狭窄・逆流の有無やその度合いなどがわかります。心雑音といわれたら、放置してもいい機能性雑音なのか、それとも今すぐ治療が必要な心臓弁膜症なのか、この検査で必ず確認しましょう。また、心臓弁膜症と診断された場合は、「弁の壊れ方」や「心臓の動き」が将来悪化する可能性があります。このため年に1回程度の定期的な心エコー検査を受け、悪化があるかどうか、あるとしたら手術が必要かどうか、について観察してもらいましょう。心エコー検査は「循環器専門医」という専門医資格を持つ内科のお医者さんで検査してもらえますので、近くのお医者さんを探してみましょう。

    心エコー図検査

    心臓弁膜症の治療は?

    心臓弁膜症の治療は保存的な方法から手術治療まで様々です。軽症の場合は薬物治療が行われることがありますが、進行が懸念される場合は手術が必要となることもあります。手術治療は2種類あります。一つはカテーテルという細い管を血管に入れ、壊れた弁を交換する内科的な方法。もう一つは直接胸を開いて心臓を露出し、弁を交換する外科的な治療です。 後者の方が歴史があり確実な治療法といわれていますが、手術そのものが体の負担となるため超高齢者では難しいことが難点です。治療法の選択は患者と主治医との相談が大切です。

    心臓弁膜症の治療

    1960年、世界初の人工心臓弁が製品化。それは、二人の研究者、マイルズ・エドワーズという燃料ポンプのエンジニアと、アルバート・スターという心臓外科医の対話から生まれた偉大な発明でした。 1958年、エドワーズ60歳のときに、人工心臓の開発を志し、自宅裏庭のガレージを利用して研究室を立ち上げます。彼は、心臓弁膜症を患うひとりの患者でもありました。スター博士は、人工心臓よりも先に、人工心臓弁の開発を目指すよう助言し、わずか2年で世界初の「スター・エドワーズ・ボール弁」を完成させました。

    エドワーズ氏(左)とスター博士(右)

    エドワーズ氏(左)とスター博士(右)

    スター・エドワーズ・ボール弁

    スター・エドワーズ・ボール弁

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