循環器病と栄養 ~食事に気をつけよう~
心臓や血管疾患の予防に良い食事と栄養
心臓や血管疾患の予防には毎日の食事が大切です。肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの予防ができます。
ここでは、『心臓や血管に良い』という観点から推奨される食事例を紹介します。
取り入れられるものから是非チャレンジしてみてください。
循環器病を予防するための食事の原則
主食『精製されていない食べもの』に切り替えてみよう
炊きたての白いご飯やふわふわの白い食パンなど、私たちにとって身近な主食は『精製』という処理を経た原材料でつくられています。
精製という工程では、糠となる種皮や胚を除去して原材料を白くします。その除去された糠には含まれる繊維質、ビタミンB、ミネラルなどに冠動脈疾患の予防や心血管死のリスクを減らす効果が確認されています。
『心臓や血管に良い主食』を心がけるなら、いつもの白米やパンを精製されていない玄米や全粒粉パンに切り替えてみるとよいかもしれません。
ちなみに、ダイエット法として知られる糖質制限は、極端に制限するとかえって死亡率の増加に関連しています。最適な炭水化物摂取量は全体の50%~55%であるとされています。
主菜、赤身中心、加工肉は控えめに!野菜と魚を積極的に食べよう!
肉を主体としたたんぱく質の摂取は、冠動脈疾患発症のリスクがあるとしばしば指摘されます。ただし、日本人の肉摂取量は欧米人の半分ほどと少ないため、1日200g未満の摂取ではあまり気にしないで良いと思われます。ただし、油の過度な摂取は動脈硬化リスクを高めますので、脂身の少ない赤身肉を選ぶよう心がけてみましょう。
気を付けたいのは、ハムやソーセージなどの加工肉の摂取。これらは塩分や食品添加物を多く含むため、1日75g以上取ることで心不全発症リスクや心不全死リスクが増えるとの報告があります。
ソーセージ1本約20g・ハム1枚10-15gですので、1日に食べる量の目安としてください。
健康に気を遣おうと、肉や魚を減らして野菜中心の食事にすると、たんぱく質不足となり、身体の機能を保てなくなることがあります。たんぱく質の役割は、筋肉、皮膚、骨、髪の毛や爪、臓器、ホルモン、神経伝達物質の構成、免疫力強化などです。たんぱく質の摂取量が減ると筋肉量の減少、セロトニンもアミノ酸からできているため集中力や思考力の低下にもつながります。野菜中心の生活に切り替える場合は、豆類や豆製品も良質なたんぱく質をしっかり摂るよう心がけてください。
たんぱく質は動物性·植物性どちらがよい?
タンパク質には動物性のものと、植物性のものがあります。
動物性タンパク質を植物性タンパク質に置き換えると、心血管疾患による死亡率は低下します。
しかし、動物性たんぱく質はヒトの体内で合成できない必須アミノ酸を含むので、植物性たんぱく質だけにすればよいというわけではありません。また、動物性・植物性たんぱく質などたんぱく質の種類によって組成や働き、消化吸収にかかる時間などが異なるので、バランスよく摂ることが大切です。
魚は冠動脈疾患リスク低減に効果あり
アメリカ心臓協会(AHA)では最低週2回の魚摂取を推奨しています。
欧米人に比べ、日本人は魚をよく食べている傾向があります。そんな日本人を対象とする研究において、週8回魚(180g/日)を摂取する人は週1回(23g/日)の人に比べ冠動脈疾患のリスクが少ないことが報告されています。
特に青魚に多く含まれるω(オメガ)3系多価不飽和脂肪酸をしっかりと摂取することで、心血管死リスクが減少することが確認されています。
バランスの良い食事のポイント
- 「健康的な食事パターン」のポイントを押さえること
- 野菜·果物を積極的に摂る
- 脂質に気を付ける
- 清涼飲料水(加糖飲料)の摂取を控える
健康的な食事パターンとは
「健康的な食生活といえば和食」というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
心血管イベントに有効と言われる食生活のポイントは、
- 魚、大豆、野菜、海藻、きのこ、全粒穀物が多い
- 肉類や動物性油脂の摂取量が少ない
- 砂糖を含む菓子や飲み物の摂取が少ない
ことが挙げられ、これと照らし合わせると和食は健康的な食事パターンにマッチしています。また、地中海食などもそれに含まれます。
栄養バランスだけでなく、量のバランスも忘れないようにしましょう。1日3食、同程度の量を摂ることで、体への負担が少なく自然とバランスの良い食事になります。
野菜·果物を積極的に摂ろう!
動物、卵、魚、乳製品、加工肉製品の摂取量と、野菜の摂取量が同じくらい、可能であれば野菜の方を多くするよう心がけてみましょう。
実際に、日本でも欧米でも植物性中心の食事に切り替えたことで有意な死亡率の低下が報告されています。
野菜や果物は食物繊維やビタミン、ミネラルを多く含み、心血管死の減少に有用です。
脂質はほどほどに
肉類の脂身や鶏の皮、ラードなどの動物性脂肪やバターなどの乳製品には、飽和脂肪酸が多く含まれています。
飽和脂肪酸は、血液中のLDLコレステロールを増加させ、動脈硬化を促進します。動脈硬化することから、飽和脂肪酸の摂取量と心筋梗塞の発症リスクは強い関係があると報告されています。
マーガリン、ショートニングなど植物性油脂にはトランス脂肪酸が多く含まれます。これを多量に摂取すると、LDL コレステロールが増加する一方、HDLコレステロールが減少し、冠動脈疾患のリスクが高まります。
スナック菓子、パイ・クッキー類などをはじめとした市販の洋菓子には、マーガリンやショートニングを多く使っているものがあります。これらの摂取はほどほどに注意しましょう。
清涼飲料水(加糖飲料)の摂取を控える
ジュースをはじめとする、砂糖が多く含まれる飲料の摂取は控えましょう。
砂糖や人工甘味料で甘くした飲料は、2型糖尿病の発症の増加や動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを高めます。これらの清涼飲料を1日1回摂取すると、糖尿病の頻度が20%増加するというデータもあるので、1週間に1本程度にしましょう。
参考
2019 ACC/AHA Guideline on the Primary Prevention of Cardiovascular Disease: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines 3. Lifestyle Factors Affecting Cardiovascular Risk e605 3.1. Nutrition and Diet e605 https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000000678
心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント http://www.asas.or.jp/jhfs/pdf/statement20181012.pdf
E-ヘルスネット(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp
(2021年11月5日閲覧)
循環器病と肥満
日本人の肥満事情
肥満の定義はBMI(Body Mass Index)によって定義されます。
BMIは『体重(kg)÷身長(m)2』という計算式で求められ、
- 25 kg/m2以上が肥満
- 35 kg/m2以上が高度肥満
肥満と循環器病の深い関係
肥満は循環器病のリスクを高めます。
肥満の方は肥満でない方と比較して心筋梗塞、狭心症、脳梗塞といった動脈硬化性疾患発症のリスクが高くなります。さらに、それだけではなく心不全、心房細動などのリスクも高くなることが知られています。
メタボリックシンドローム
近年健康診断などでも耳馴染みのある『メタボ』。正式名称はメタボリックシンドロームで、肥満を背景として高血圧や脂質異常症、糖尿病を合併する病態のことを言います。
高血圧症:くり返して測っても血圧が正常より高い場合をいいます。(最高血圧が140mmHg以上、あるいは、最低血圧が90mmHg以上)
脂質異常症:血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を言います。
糖尿病:インスリンというホルモンの不足や作用低下によって、血糖値の上昇を抑える働き(耐糖能)が低下し、高血糖が慢性的に続く病気です。
メタボリックシンドロームと診断された方は循環器病のリスクが36倍も高くなるという報告があります。肥満と循環器がどう結びつくのか、メタボリックシンドロームの病態形成を解説しながら紐解いてみましょう。
過剰に摂取されたエネルギーは脂肪として身体に蓄積します。
脂肪は内臓に蓄積する内臓脂肪と皮下に蓄積する皮下脂肪に分けられます。このうち、メタボリックシンドロームの病態形成に関与しているのが内臓脂肪です。
内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなくアディポカインと呼ばれる複数の生理活性物質を産生していること、そしてこのアディポカインが高血圧症や糖尿病などの病態形成に強くかかわっていることが分かっています。
なお、診断基準は次の通りです
必須項目 腹囲:男性>85cm、女性>90cm
以下のうち2項目
1. 脂質異常:高トリグリセリド血症>150mg/dL かつ/または 低HDLコレステロール血症<40mg/dL
2. 高血圧:収縮期血圧>130mmHg、拡張期血圧>85mmHg
3. 高血糖:空腹時高血糖>110mg/dL
適切な体重管理って?
肥満は循環器病のリスクを高めますが、BMIは低ければ低いほど良いというわけでもありません。
これまでの研究から、BMI 20~25 kg/m2が最も死亡率が低いことが分かっています2)。このことから以下のように目標BMIが設定されています3)。
しかし、心不全患者においてはBMIが高い方が反対に死亡率が低いという“obesity paradox”と呼ばれる現象も確認されています。
BMIを目安に体重管理を行っていくことが重要であることは勿論ですが、BMIの数値だけではかくれ肥満の方と筋骨隆々の方を区別することができません。
今後はBMIだけでは見ることのできない“中身”を見ていくこと、さらには“中身”に応じて個別に目標設定を行い管理してくことが大切になります。
参考
1. 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」
2. 2021 ESC Guidelines on cardiovascular disease prevention in clinical practice
3. 日本心不全学会 「心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント」
(2021年11月5日閲覧)
循環器病と塩分
日本人の塩分摂取量
日本人の塩分摂取量は欧米諸国と比較して多いことが知られています。
欧米と比べ,調理過程での食塩の使用が多いこと、食卓塩や醤油などが原因といわれており、厚生労働省や学会なども長きにわたって減塩を呼び掛けてきました。
その結果、塩分摂取量は年々低下傾向ではあるものの、それでも平成29年国民健康・栄養調査結果では日本人の1日の塩分摂取量は男性10.8g、女性9.1gであり、世界保健機関(WHO)の提唱する目標1 日5 g(ナトリウム2 g)未満からは大きく離れた数値となっているのが現状です。
塩分を摂り過ぎると何が起こる?
これまでの多くの疫学研究や臨床研究から、塩分の過剰摂取が高血圧と関連することがわかっています。
食塩を摂りすぎると、血液中のナトリウムの濃度が高くなります。ナトリウム濃度が高くなると、中枢神経に働いてのどが渇き、水分を摂ります。
水分を摂ると血管に流れる血液量が増え、血圧が高くなります。つまり、食塩を摂りすぎると体内のナトリウムと水分の量を調整するために血液量が増え、高血圧になります。
そして高血圧は全身の動脈硬化を引き起こし、脳卒中などの脳血管疾患、心筋梗塞や心不全などの循環器病、慢性腎臓病など、様々な全身疾患の危険因子となります。
心臓は高血圧の重要な標的臓器です。収縮期および拡張期の心筋への圧負荷が増大することで、心肥大や心筋の線維化などの心筋リモデリング(心臓の構造変化)が引き起こされます。また、冠動脈内皮障害が生じ、脂質異常症や糖尿病などの他の危険因子と相まって、冠動脈硬化が進行します。その結果、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患、心不全、心房細動などの不整脈疾患などが生じます。また、高血圧による腎臓病の進行が、二次的に循環器病に影響することもわかっています。
塩分は何gまで摂っていい?
日本におけるガイドラインでは
- 高血圧や糖尿病を有するが心臓の異常がなく症状のないステージAの心不全
- 心肥大や心機能低下、弁膜症、心筋梗塞後など構造的異常があるものの症状のないステージBの心不全
の患者さんに対しては、減塩の目標値は1日6gが推奨されています。
減塩って本当に効果あるの?
体重管理と違って、減塩は効果が目に見えにくいため、なかなか行動に移せないという方も少なくないと思います。
研究・調査では、5g減塩することで、収縮期血圧7mmHg程度、拡張期血圧3.5mmHg程度の降圧効果があることが分かっています。
血圧目標は冠動脈疾患、心不全、心房細動などの循環器病で、収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満が推奨されています。
血圧が高くなるほど、循環器病を発症する割合が高くなりますが、高血圧の定義には含まれない正常値とされる血圧の中でも、正常高値(収縮期血圧130~139mmHg、または拡張期血圧85~89mmHg)が循環器病の発症率が高いという報告もあります。
高血圧を指摘されている人はもちろん、正常範囲の日とも、予防のために減塩を意識することが大切です。
食塩摂取量を減らすためには、まず、自分が毎日どれだけ食塩を摂取しているかを知ることが必要です。現代では外食や加工食品から摂る食塩が大きな割合を占めます。表示も目を配り、一人ひとりが注意していくことが大切です。
参考
- 厚生労働省 平成29年国民健康・栄養調査
- 高血圧治療ガイドライン2019
- 心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント
(2021年11月5日閲覧)