
このたび、「急性冠症候群(ACS)患者を対象とした地域連携クリニカルパスの現状と展望」に関する全国調査を実施し、結果をCirculation Journal誌にpublish致しました (Minami Y et al. Circ J. 2025 Jan 28. doi: 10.1253/circj. CJ-24-0714. Online ahead of print)。これは日本循環器協会(JCA)として初めての研究論文となります。
本調査は、全国47都道府県のJCA支部長の皆様のご協力のもと、ACS患者の包括的な治療と医療機関間の連携体制の実態を明らかにすることを目的としています。調査の結果、ACS管理の地域連携クリニカルパスの導入・運用には地域ごとに大きな差があること、またガイドラインに基づいた標準化が今後の課題であることが示されました。特に、リスク因子管理の重要性や、持続可能な地域医療連携の確立の必要性が浮き彫りになっています。
本研究の成果が、全国の循環器診療の質向上と、患者さんにとってより良い治療環境の整備に寄与することを願っております。また、JCAとして今後もこのような調査・研究を通じて、循環器領域の発展に貢献してまいります。
論文要旨
タイトル:急性冠症候群患者を対象とした地域連携クリニカルパスの現状と展望:全国調査結果を含めて
■背景
急性冠症候群(ACS)患者の包括的管理には、中核病院からクリニックに至るまで、医療機関間のシームレスな連携が求められる。しかし、ガイドラインに沿った治療継続の実践は日常臨床において依然として課題である。本研究の目的は、日本国内におけるACSの地域連携クリニカルパスの普及率および運用状況を評価することである。
■方法と結果
本研究では、全国47都道府県の日本循環器協会(JCA)支部長を対象とした質問票調査、およびWeb調査を実施した。調査対象は、県単位または地域単位で運用されているクリニカルパスとし、各病院独自のものや運用状況が不明なものは除外した。調査の結果、全国で合計18のACS管理クリニカルパスが特定された。47都道府県のうち、11県(23%)は県単位のクリニカルパスを採用し、4県(9%)は地域単位のクリニカルパスを導入していた。ほとんどのクリニカルパスには、LDL-C、HbA1c、血圧といったリスク因子管理の目標が設定されていたが、LDL-C管理目標を70 mg/dL未満とするものは8つのみであった。質問票調査により、運用状況が良好と判断されたクリニカルパスは、比較的最近(2022~2024年)開始または更新されたものであり、LDL-C管理の具体的な薬剤選択のプロトコルが含まれていた。また、JCA 45支部が、政府や学会による将来的なACSクリニカルパスの整備に肯定的な意見を示した。
■考察
本調査で得られた主な知見は以下の通りである。
- 都道府県ごとの格差:ACS患者向けの地域連携クリニカルパスの導入には地域差があり、約3分の1の都道府県でしか導入されていない。
- 治療目標の明確化の必要性:ほとんどのクリニカルパスにはリスク因子管理目標が含まれているが、最新のガイドラインが推奨するLDL-C 70 mg/dL未満の目標値を設定しているものは少数にとどまる。
- 機能しているクリニカルパスの特徴:機能しているクリニカルパスは県単位で運用されているものであり、最新の更新がなされ、治療プロトコルが明確に記載されているものが多い。
- 今後の課題:政府や学会主導での標準化されたクリニカルパスの整備が求められ、特に治療プロトコル、リスク因子の管理目標、かかりつけ医の役割の明確化が必要である。
■結論
本研究は、日本におけるACS管理の地域連携クリニカルパスの現状と課題を明らかにした。現状では、クリニカルパスの導入・運用状況には地域差があり、今後はガイドラインに基づいた治療プロトコルの明確化と、持続可能な地域医療連携の確立が求められる。行政や学会主導による全国的な取り組みが、今後のACS管理の質向上につながると期待される(本研究はアムジェン株式会社から研究助成をうけた)。
論文詳細
掲載誌:Circulation Journal
掲載日:2025年1月28日
著者:Minami Y, et al. DOI:10.1253/circj.CJ-24-0714
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-24-0714/_article/-char/en
用語解説
- 急性冠症候群(ACS: Acute Coronary Syndrome) 心臓の血管(冠動脈)が突然狭くなったり詰まったりすることで起こる病気の総称です。心筋梗塞や不安定狭心症などが含まれ、早急な治療が必要となる重要な循環器疾患です。
- 地域連携クリニカルパス 患者さんの治療開始から回復までの経過を、地域の中核病院とかかりつけ医が共有して用いる診療計画表です。診療の手順や治療目標、患者さんの経過などが明確に示されており、医療機関間の連携をスムーズにする重要なツールとなっています。

・プレスリリースはこちら→https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000117401.html