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一般的に心拍数を用いた運動処方は心房細動患者には適しません。心肺運動負荷試験(CPX)から算出される嫌気性代謝閾値(AT)時の運動強度を心拍数に関わらず継続すべきです。しかし、体調や状態によって心拍応答は異なるため、その他の所見と合わせて運動処方を行いましょう。また、ボルグ指数が11~13(”楽である”~”ややきつい”)になるように運動強度を設定することも有効です。
心房細動は日常臨床においてよく遭遇する不整脈の1つで、年々患者数は増加傾向です。また、心房細動には心不全を合併している場合も多く、心房細動自体が血行動態に悪影響を与えるため、心房細動の患者さんに対する運動強度の設定は非常に重要です。
CPXからATを算出して運動処方を行う「AT処方」が一般的な運動強度の設定方法であり、これは心房細動患者にも当てはまります。CPXを実施できない場合には、安静時の心拍数から運動強度を設定する方法(簡易心拍処方)やボルグ指数#1が11~13になるように運動強度を設定(自覚的運動強度)していくことになります。
心房細動を有する患者さんではAT処方や簡易心拍処方から算出される目標心拍数では管理が難しいと言われています。運動負荷により、容易に目標心拍数を超えてしまうことが多いためです。また、同一の患者さんでもその日の体調や状態によって心拍応答が異なる場合もあるため、心拍数による運動強度の設定はより困難になります。さらに、AT処方を行うにしても、全症例に対してCPXを実施できない場合もあります。
このように、心房細動患者においては心拍変動が大きいため目標心拍数を目安にした運動強度の設定が難しいことから、AT処方時の運動強度を継続することが推奨されています。一方で、CPXへのアクセスが悪いためにAT処方以外の目安が必要となることもあります。
たとえば、心拍数を運動処方の目安として用いるのであれば、運動中の心拍数は150/min以下の負荷で実施することが心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン#2で推奨されています。その際、安静時の心拍数が110/min以上であればその日の運動療法は中止、また運動強度を下げるか時間を短くするメニューを考慮することが必要となります。
また、心拍数以外の指標を用いた運動処方の設定方法として、ボルグ指数が11~13(”楽である”~”ややきつい”)になるように運動強度を設定することが有効です。その際、運動中に快適に会話を続けられる運動強度に設定(Talk Test)することや、運動中の自覚症状やエルゴメータの駆動方法(回転数が維持できているのか)の確認、運動前後でのバイタルサイン(血圧、酸素飽和度、呼吸回数など)の変化といったいくつかの指標を総合的に評価して、その運動強度が過負荷でないかを判断することが心房細動を有する患者さんへの運動強度を設定する際のポイントとなります。
さらに冒頭にもあったように心房細動を有する方は心不全を併発していることも少なくないため、心不全の自覚症状や他覚所見があれば運動強度を下げる事や心不全に対する加療が必要となる可能性もあることは念頭に置いておく必要があります。
#1 ボルグ指数:1962年にスウェーデンの心理学者により開発された主観的運動強度。
#2 2021年改訂版心血管疾患患者におけるリハビリテーションのガイドライン #心房細動 #運動処方 #リハビリ #心リハ指導士2022年11月23日
パナソニック健康保険組合 松下記念病院 理学療法士 笠井健一
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